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盛岡家庭裁判所 昭和36年(家ロ)8号の1 判決 1962年5月08日

原告 柏木正(仮名)

被告 大木二郎(仮名)

主文

被告が原告に対する盛岡家庭裁判所昭和三〇年(家イ)第一八九号扶養料請求家事調停事件の調停調書に基く強制執行は許さない。

さきに盛岡地方裁判所が昭和三十六年九月九日なした強制執行停止決定はこれを認可する。

前項に限り仮に執行することを得。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文一、二、三、四項同旨の判決を求める旨申立て、その請求の原因として、

一、被告は盛岡家庭裁判所昭和三〇年(家イ)一八九号扶養料請求家事調停事件の執行力ある調停調書正本に基いて盛岡地方裁判所執行吏代理に委任して原告所有に係る別紙目録記載の物件を強制執行のため差押えをした。

二、前記調停事件は被告が原告の同意又は承諾を得ないで勝手に原告の民名と印鑑を使用して昭和二十九年八月二十九日婚姻届をし戸籍上夫妻として記載せられていた当時、被告の申立により昭和三十年十二月十二日盛岡家庭裁判所調停委員会において成立したものであつた。原告は当時被告との内縁関係を解消して別居中であり、扶養義務のない旨強く主張したが、「戸籍が消除されない限り妻を扶養する義務がある」といわれ、そのうえ「若し婚姻届が無効となり戸籍上妻の身分が消除された場合は扶養の義務がなくなり、かつ、既に支払つた扶養料は返還請求できる」といわれて浅はかにもこれを軽信して調停に応じたのである。

三、しかしながら原告は昭和三十二年六月二十四日被告に対し婚姻無効確認の訴を提起し、これが盛岡地方裁判所昭和三十二年(タ)九号事件として係属し、審理の結果昭和三十四年六月三日原告勝訴の判決言渡あり、被告はこれに対し控訴したが、同三十六年一月三十一日控訴棄却の判決言渡あり、被告が上告しないので弟一審判決は同年二月二十一日確定同三十六年四月一日被告との婚姻事項が戸籍上消除されたものである。

四、前記調停は原告と被告との婚姻の有効を前提としてなされたものであるが、右のように原告と被告との婚姻が無効であることが判決をもつて確定され原告の被告に対する婚姻を前提とする扶養義務は存在しないことが明確となつたので右調停調書に基く強制執行は許さるべきものではないから、本訴請求に及んだと述べ、立証として甲第一号証、第二号証、第三号証、第四号証の一ないし二〇、第五号証、第六号証、第七号証、第八号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用した。

被告は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張事実中、一の事実は認める。二の事実中被告の申立によつて昭和三十年十二月十二日盛岡家庭裁判所において開催された調停委員会において調停が成立したことは認めるが、その余の事実は否認する。

三の事実は認める。四の事実は否認する。仮に原告被告間の婚姻が無効であるとしても両者は昭和二十三年一月頃内縁関係に入り当時その関係は明確に解消されていなかつたので内縁中の扶養の義務もあつたのであるから原告の本訴請求は失当であると述べ、甲第七号証は不知、その余の甲号各証の成立を認めた。

当裁判所は職権で被告本人を尋問した。

理由

被告の申立により盛岡家庭裁判所昭和三〇年(家イ)一八九号扶養料請求家事調停事件について昭和三十年十二月十二日同裁判所調停委員会において原告との間に調停が成立し、被告が右事件の執行力ある調停調書正本に基いて盛岡地方裁判所執行吏代理に委任して原告所有に係る別紙目録記載の物件を強制執行のため差押をしたことは当事者間に争がない。

しかして成立に争なき甲第二号証によれば右調停調書には

1  相手方(原告)は申立人(被告)に対し其の扶養料として次の期日に次の金額を盛岡市下小路小田美子方へ宛て送金して支払うこと。

(1)  本日金二,〇〇〇円を支払い申立人はこれを受領した。

(2)  昭和三十年十二月三十日限り金八,〇〇〇円

(3)  昭和三十一年一、二、三月は各月末までに金二,〇〇〇円

四、五、六、七、八、一二月は各月末までに金四,〇〇〇円

(4)  昭和三十二年及び同三十三年の一、二、三月は各月末までに金三,〇〇〇円

四、五、六、七、八、一二月は各月末までに金四,〇〇〇円

九、一〇、一一は各月末までに金五,〇〇〇円

(5)  昭和三十四年一月以後の扶養料については又別に協議すること、

の調停が成立した旨の記載が認められる。

そこで右調停調書に記載の扶養料は如何なる趣旨のものであつたかにつき考えてみるに、右の解釈に当つては一般法律行為の解釈の法則に従い使用された文字のみに拘泥することなく諸般の事情をも参酌して当事者の真意を探求しなければならないものであるところ、成立に争なき甲第一号証、第二号証、第五号証、第六号証、第八号証並びに原告、被告各本人尋問の結果を綜合すれば、原告と被告は昭和二十三年十一月頃いわゆる内縁の夫婦となり、岩手県二戸郡○○○村において同棲生活を始めたがやがて円満を欠くに至り、被告は同二十九年六月一日盛岡家庭裁判所二戸支部に内縁関係解消に基く慰藉料請求の調停を申立て同月一一日その第一回調停期日において被告の内縁関係を解消したい旨申立てたに対し原告はこれを承諾する旨を明らかにしたが、この調停が継続中昭和二十九年八月二十九日被告は原告に婚姻の意思がないのにかかわらず原告との間の婚姻届をしたため、原告がこれを認めず調停は不調となつた。そこで被告は原告と別居し盛岡市上田方面に移転し昭和三十年十月二十八日盛岡家庭裁判所に協力扶助の調停申立をなし、同年十二月十二日同裁判所において開催された調停委員会で成立するに至つたものであること。その際原告は右婚姻届は被告が勝手にしたものであるから扶養料を出すわけにはいかないといつたけれども調停委員から一応戸籍上夫婦になつているのであるから扶養の義務がある。もしあとで婚姻が無効になればそれまで支払つた扶養料は返してもらえるから支払いなさいといわれこれに応じ右調停を成立させるに至つたものであること、しかしその後原告は被告を相手として盛岡家庭裁判所二戸支部に婚姻無効の調停を申立てたが不調となり昭和三十二年六月二十四日被告を相手として盛岡地方裁判所に婚姻無効確認の訴を提起し、昭和三十四年六月三日原告勝訴の判決言渡あり、被告が控訴したが、同三十六年一月三十一日控訴棄却の判決言渡があつて被告が上告をしないので右第一審判決は昭和三十六年二月二十一日確定し、戸籍上も婚姻事項が消除されたものであることが認められ、これに反する被告本人尋問の結果の一部はたやすく措信し得ない。

被告は右婚姻が無効であるとしても原告被告間の内縁関係は未だ明確に解消されていなかつたので内縁中の扶養の趣旨からも調停が成立したものである旨主張するが、右調停は前記認定のとおり有効な婚姻を前提としてなされたもので、内縁関係中の扶養の趣旨から合意がなされたものと認めるに足る証拠はないので右主張は採用し得ない。

してみれば本件調停は調停委員会において戸籍上婚姻届のある以上扶養の義務あるものとして原告に扶養料の支払を勧告し、原告もその記載ある以上やむを得ぬものとしてこれに応じ、真実に反する事実を前提とし調停を成立させるに至つたものであるが、既に前記の如く判決をもつて婚姻の無効なることが確認された以上婚姻を前提とした扶養義務は存在しなかつたものといわなければならないから、右調停調書の執行力の排除を求める原告の本訴請求は理由あるものといわねばならない。

よつてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、同法五六〇条、五四八条一、二項に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 大塚淳)

目録<省略>

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